前略
先生には、ボイスにとどまらず勇気をもトレーニングしていただきました。
の館長です。
◆
2023年8月24日、小松チヒロ先生が亡くなった。
嘘かと思った。
あまりに早すぎる。
小松チヒロ先生は、ゴスペルシンガー&ディレクターにしてボーカルスクール代表。
僕にとってもボイトレの先生でした。
僕は2019年開催の市民ミュージカルに、主人公の少年の父親役として出演したのですが、稽古を重ねていくうち、どうにも「歌う」ということに苦痛を感じるようになってしまっていました。
それまでは、カラオケも好きでよく歌っていたし、歌うという行為を難しいものと認識することもなく、誰にでもできる行為くらいに甘く見ていました。
それが、初めて真剣に “歌うこと” に向き合わざるを得なくなった結果、その難しさと奥深さに打ちのめされたのです。
大げさでなく、打ちのめされ、カラオケすら歌いたくなくなるくらいまで落ち込みました。
でも落ち込んでる時間はありません。
稽古不足を幕は待たないのです。(© 夢芝居 1982)
切羽詰まっていた僕に、ミュージカル仲間が紹介してくれたのが、小松チヒロ先生でした。
先生は、どこが悪いとか、どこを直すべきとか、そういったことはいっさい言わず、全期間通して常に褒めてくれました。
おかげで、「今あるチカラを全部出しきることだけ考えればいいんだ」という、開き直りにも近い気持ちまで持っていくことができたのです。
もちろん僕に直すべきところが無かったはずはないし、そんなこと先生はすぐに気がついたでしょう。
でも、それを本番までに修正するのは無理で、だったら変にあれこれ悩ますよりも、褒めて自信をつけさせて本番に臨ませるほうが好結果につながると考え、そのようにしてくれたのだろう……と、あとで勝手に自分なりの解釈をしました。
そうして迎えた本番。
僕について言えば、前日のゲネプロがこれまでで最低の出来だったにもかかわらず、本番だけはなんとかうまくいったようで、終演後にホールの元館長がわざわざ僕のところに駆け寄ってきて「良かった良かった!」と握手してくださった。
チームとしても「稽古も含めて今までで一番良かった!」と演出の先生が喜んでくださった。
僕は、やり遂げたとかいう達成感なんかじゃなくて、ただただホッとした。
みんなの足を引っ張ることだけはしたくなかったから、安堵と虚無に包まれていた。
そんなところへ、仲間が僕に届けてくれたのが、小松チヒロ先生からのプレゼント。
先生も本番を観てくださり、これを仲間にあずけて帰っていったのでした。
綺麗なボトルのワイン。
先生みたいに、華やかでいて繊細なボトル。
「Burg Layer Schlosskapelle/ブルク・ライヤー・シュロスカペレ」というワインらしい。
先生からのメッセージ。
「100点満点でした」
最後まで褒めてくださった。
ワインは何かのきっかけに飲もうとずっと思っていました。
次に先生のゴスペルコンサートを聴きに行ったときに、帰ってきて余韻に浸りながら飲むのがいちばんいいかな? と思っていたのに、もうその日は来ません。
今となっては、ボトルを空けてしまう気にはなれない……。
先生とのわずかな繋がりまでもが無くなってしまうような気持ちになるから。
いや、先生、早すぎますよ、ほんと。
まだまだ先生は歌わなきゃいけなかったし、僕らは聴かなきゃいけなかったのに。
いただいたワインは、献杯には使いたくないんですよ。そのためのものじゃないから。
先生、さようなら。
もう会えないんです。
会えないんですけど、会えないことを悲しむより、出会えたことに感謝して過ごすことにします。
あのときも、そしてこれからも、ありがとうございます。
絶対に忘れないので絶対に居なくはならない
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プロフィール
館長と申します。
ホッピーを飲みながら猫をモフっているときが至福の時だと思いますがそういう状況になったことがありません。世知辛い世の中ですね。
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